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掲載日 2010/7/20

絶縁油中の微量PCBの分析 -環境省の簡易測定法マニュアル(第2版)- 

1. 微量PCBの処理
 高濃度PCB含有の電気機器(PCBを絶縁油として使用したトランス、コンデンサ)は、日本環境安全事業(株)による処理が進行しています。一方絶縁油にPCBを使用していないとする電気機器に数mg/Kg〜数十mg/KgのPCBに汚染された絶縁油が大量に存在することが判明しました。微量でもPCB濃度が0.5 mg/Kg を超える絶縁油を含む電気機器(トランス、コンデンサ)はPCB廃棄物に該当するため(注1)、「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」の定めるところにより、2016年7月までに処分が必要です。微量PCB含有絶縁油は、日本環境安全事業(株)による処理対象ではないため同社へ処理委託できず(注2)、保管事業者自らが処分するか、知事または環境大臣の認定を受けた業者に委託しなければなりません。しかも、PCBを絶縁油として使用した電気機器と異なり、PCB廃棄物に該当するか判断するため、大量の電気機器について実際にPCB濃度を測定する必要があるのです。
 環境省は「微量PCB混入廃電気機器の処理に関する専門委員会」を設置、処理方策(処分方法、収集・運搬方法、測定方法)を検討して、既に無害化処理制度、収集・運搬、焼却処理のガイドラインを作成公表してきました。更に2010年1月「絶縁油中の微量PCBに関する簡易測定法マニュアル」第1版報道発表資料)、6月に第2版(第1版に内容追加したもの、報道発表資料)を公表しました。精度が担保され、短時間で、低廉なコストで定量可能な測定法として「簡易定量法」10種およびPCBが基準濃度以下(0.5mg/Kg)であることを判定できる「迅速判定法」6種が公表されました。従来のPCB測定法(厚生省告示第192号の別表第2、別表第3の第1)(マニュアルでは全てのPCB化合物を分析可能な精密法と称す)は、精度は高いが試料の前処理(機器分析にかける前のPCBの分離精製)が複雑で時間がかかり、高分解能質量分析計使用し、分析コストが高いことから、短時間、低廉な費用で微量PCB測定可能な簡易測定法が求められていました。2010年7月1日から本マニュアル法で測定できます。なお環境省は今後も分析要件を満たす新たな測定法が認定され次第、簡易測定法マニュアルに追加する方針です。
 三菱化学アナリテックでは絶縁油中の微量PCB濃度の測定を受託しています。

2. 絶縁油中の微量PCB濃度の簡易測定法
1)測定法の選定:応募のあった測定方法および従前より評価をしてきた方法から、下記測定要件を満たし、中立機関による測定結果等を基に、絶縁油中の微量PCB濃度測定に活用できるかを評価、選定しています。
2)測定要件:簡易測定法といっても、告示第192号の別表第2に定める方法と同等の精度を担保するため、下記測定要件を満たし、かつ厳しい精度管理も求めています。測定要件は次のとおりです。
 ①測定範囲:PCB濃度0mg/Kg〜1mg/Kg
 ②検出下限値:0.15mg/Kg
 ③変動係数15%未満
 ④真値との差:−20〜+20%
 ⑤測定時間:概ね4時間以内
 ⑥測定費用:概ね1万円/検体(年間2万検体受注時)です。
3)絶縁油中の微量PCB濃度の簡易定量法
機器分析法9種、生化学的分析法1種、計10種の測定法です(下表参照)。分析法の構成はいずれも絶縁油の前処理工程(絶縁油中のPCBのカラム分離、抽出等の精製)、PCB成分の分離工程(ガスクロマトグラフ等)、各PCB成分の検出工程(電子捕獲型検出器、高分解能質量分析、生化学的分析等)からなっており、それが分析法の名称に使用されています(分析法①から⑧と⑩では、前処理/分離精製/検出法で記載しています)。例えば分析法②⑥⑧⑩は前処理法が同じで、検出法が異なっています。
<機器分析法>
分析法①:高濃度硫酸処理/シリカゲルカラム分画/キャピラリーガスクロマトグラフ/電子捕獲型検出器(GC/ECD法)
 高濃度硫酸処理で芳香族炭化水素に極性を付与し、分離カラムで絶縁油成分を除去、PCB画分をGC/ECDで測定します。キャピラリーガスクロで分析時間短縮。
分析法②:加熱多層シリカゲルカラム/アルミナカラム/キャピラリーガスクロマトグラフ/電子捕獲型検出器(GC/ECD法)
 絶縁油の主成分(飽和炭化水素、芳香族炭化水素)を加熱固層カラムで迅速に除去、PCB成分をキャピラリーGC/ECDで測定します。
分析法③:硫酸処理/ジビニルベンゼンーメタクリレートポリマーカラム/キャピラリーガスクロマトグラフ/電子捕獲型検出器(GC/ECD法)
 ジビニルベンゼンーメタクリレートポリマーカラムで分離精製したPGB分画をキャピラリーGC/ECDで測定します。
分析法④:ゲルパーミエーションクロマトグラフ/多層シリカゲルカラム/キャピラリーガスクロマトグラフ/電子捕獲型検出器(GC/ECD法)
 ゲルパーミエーションクロマトグラフで得たPGB分画を多層シリカゲルカラムで精製し、キャピラリーGC/ECDで測定します。
分析法⑤:溶媒希釈/ガスクロマトグラ/フ高分解能質量分析(GC/HRMS)
 試料を揮発性溶媒で1000倍に希釈、希釈で更に微量濃度となったPCB成分を、高分解能質量分析計の高選択性を利用して測定しています。
分析法⑥:加熱多層シリカゲルカラム/アルミナカラム/トリプルステージ型ガスクロマトグラフ/高分解能質量分析(GC/MS/MS)
 絶縁油の主成分(飽和炭化水素、芳香族炭化水素)を加熱固層カラムで迅速に除去、PCB成分をGC/MS/MSで測定します。最初のMSで生成したイオンに不活性ガス(アルゴン)を衝突生成させたイオンを2番目のMSで検出、PCB由来のイオンを選択的に検出するものです。
分析法⑦:スルホキシドカートリッジ/ガスクロマトグラフ/負イオン化学イオン化質量分析計「GC/NICI-MS」
 硫酸処理およびスルホキシドカートリッジで絶縁油を精製し、PGB分画をGC/NICI-MSで測定します。
分析法⑧:加熱多層シリカゲルカラム/アルミナカラム/ガスクロマトグラフ/四重極型質量分析(GC/QMS)
 絶縁油の主成分(飽和炭化水素、芳香族炭化水素)を加熱固層カラムで迅速に除去、PCB成分をGC/QMSで測定します。
分析法⑨:PCBの一部の化合物濃度から全PCB濃度を計算する方法
 キャピラリーガスクロの使用で分析時間を短縮し、更に本法は定量計算法の工夫で同定・定量の手間を簡略化しています。試料中のPCB成分のうち特定の13成分(注3)のみを測定します。このデータを線形重回帰分析(多変量解析の一種)して、試料中の13成分濃度にマッチするカネロール4製品の混合比(回帰計数)を算出し、予め測定したカネロール4製品中のPCB全209成分の組成比(濃度)に、前述の混合比を乗じて試料中の全PCB濃度を算出する方法です。試料毎に全PCB濃度定量が不要、定量時間が短縮できます。本計算はGC/HRMS,GC/MS/MS,GC/QMS,および厚生省告示第192号別表第2で得られたデータに適用可能です。
<生化学的分析法>
分析法⑩:加熱多層シリカゲルカラム/アルミナカラム/フロー式イムノセンサー法
 蛍光標識した抗モノクローナル抗体と試料を混合し、フロー式イムノセンサーに流通させ、PCBと反応しなかった蛍光標識抗モノクローナル抗体を、抗原固定化セルに捕捉し、その蛍光量を測定します。試料有無の蛍光量からPCB濃度を求める方法です。

3. 絶縁油中の微量PCB濃度の迅速判定法
1)要件:検出下限0.3mg/Kg以下、変動係数30%未満(3回以上の測定)、偽陰性率(基準値(0.5mg/Kg)を超えるものを検出できない確率)1%未満
2)絶縁油中の微量PCB濃度の迅速判定法
 機器分析法2種、生化学的分析法4種、計6種の測定法です。分析法の構成は定量法と同じです(判定法①、②は前処理/検出法、③は分離精製/検出法、④から⑥は、前処理/分離精製/検出法で記載しています)。分析法の詳細は本文参照。その概要は以下のとおりです。
<機器分析法>
判定法①:SO3添加濃硫酸多層シリカゲル処理/キャピラリーガスクロマトグラフ/電子捕獲型検出器(GC/ECD法)
 キャピラリーガスクロマトグラフから指定14本の濃度を分析し、重回帰分析からこの濃度にマッチするカネロール4製品の混合割合を求め、PCB濃度を算出するものです。
判定法②:ヘキサン希釈/ガスクロマトグラフ/負イオン化学イオン化質量分析計(GC-NICI-MS)法
 ヘキサンで絶縁油を希釈後、キャピラリーガスクロマトグラフで分離したPCB 成分を質量分析計で分析するもので、前処理がヘキサン希釈のみで測定できます。
<生化学的分析法>
判定法③:高濃度硫酸シリカゲルカラム/フロースルー式免疫測定法(イムノアッセイ)
 シリカゲルカラムで精製したPCB成分と金コロイド標識PCBモノクローナル抗体を反応させ、未反応抗体を検出セルで捕捉、吸光光度計で測定します。
判定法④:硫酸処理/DMSO抽出/硝酸銀カラム精製/イムノクロマトグラフ測定法
 絶縁油から抽出精製したPCB成分をPCB抗体と反応(抗原抗体反応)させた後、発色基質で発色させ、検量線でPCB濃度を算出します。
判定法⑤:加熱多層シリカゲルカラム/アルミナカラム/フロー式イムノセンサー法
 シリカゲルカラムで精製したPCB成分を抗PCBモノクローナル抗体、抗原固相化ビーズと共にフロー式イムノセンサーに通液し、蛍光を測定し、検量線からPCB濃度を求めます。
判定法⑥:加熱多層シリカゲルカラム/アルミナカラム/間接競合酵素免疫測定(ELISA)法
 カラム処理で精製したPCB成分を抗PCBモノクローナル抗体、抗原固相化プレートを用いる間接酵素免疫測定法(ELISA)でPCB濃度を測定します。

注1:環境省通達で、PCB濃度0.5 mg/Kg 以下ならPCB廃棄物に該当せず、処理は不要。
注2:日本環境安全事業(株)は高濃度PCB含有絶縁油を処理する。
注3:特定13成分:日本で工業的に製造されたPCB製品は4製品(カネクロル300、400、500、600)。この4製品を特徴付ける13成分を、PCBの209成分から選定。



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