有用な治療薬の創製を目指して、大型放射光施設Spring-8の放射光を利用したX線結晶構造解析によるタンパク質の立体構造の解明が進められています。タンパク質の立体構造解明により、従来不明であった仕組みが明らかにされてきております。ここでは、タンパク質の立体構造解明のいくつかの事例をご紹介します。
グラム陰性桿菌のエンドトキシンは、病原菌に限らず、大腸菌など身近なバクテリヤに共通です。通常細胞壁に強固に結合していますが、細胞が死滅した時、細胞壁から遊離し、その刺激によって敗血症が引き起こされます。この敗血症の有効な治療薬はまだなく、治療薬開発に向けての取組みが行われています。
「科学技術振興機構」は、エンドトキシン識別蛋白質の結晶化物についての放射光を利用したX線結晶解析法により、その立体構造を世界で初めて解明しました。抗毒素とエンドトキシン識別蛋白質とが結合した複合体の構造解析にも成功しています。エンドトキシン識別蛋白質の立体構造には、疎水性の深いくぼみがあり、このくぼみに抗毒素が結合しており、このくぼみにエンドトキシンが結合すると敗血症を発症します。従って、エンドトキシンより先に、くぼみに治療薬を結合させ、発症を抑えてしまう様なくぼみに結合する(抗毒素の化学構造をもとに)化合物を設計、合成できれば、治療薬の開発に道が拓かれます。
体内に抗原が入り、細胞上のIgE(タンパク質の一種)と結合すると、抗原抗体反応が始まり、ヒスタミン、ロイコトリエン等が産生、放出され、平滑筋収縮、血管拡張、分泌亢進等アレルギーに特徴的な症状を引き起こします。理化学研究所は、米国ハーバード大学と共同で、これらの反応を引き起こす生理活性物質のひとつであるロイコトリエンC4合成酵素(LTC4S)の立体構造をX線結晶構造解析により解明し、「ロイコトリエンC4産生の仕組み」を明らかにしました。
LTC4Sは、3つのLTC4Sが正三角形を構成するように集って触媒機能を発揮しますが、隣り合う2つのLTC4S間に存在するV字形の空間部分が触媒機能の活性中心となっていることを明らかにしました。このV字形の空間部分には、LTC4Sの働きに直接関わると予想された複数のアミノ酸残基が面していました。このように活性中心の特徴的な構造が原子レベルで解明されたことから、このV字形の空間を埋める働きをもつ化合物を設計、合成出来れば慢性アレルギー疾患の薬剤創製に道を開らく第一歩であるとされています。
インドロカルバゾールは放線菌が作り出す化学物質で、有用な抗がん剤としての臨床研究が進み、抗がん剤としての期待が高まっています。このインドロカルバゾールに関して、富山県立大の尾仲講師がこの化合物を作り出す一連の酵素を発見、その中で「シトクロムP450StaP」がインドロカルバゾール骨格を作り出す重要な段階に関与していることを突き止めました。しかし、この酵素がインドロカルバゾール骨格を作り上げる仕組みが不明でした。このため、理化学研究所は、「シトクロムP450StaP」とインドロカルバゾール骨格の基になるクロモピロリン酸(CPA)の複合体結晶化物の放射光によるX線解析から、その「立体構造を解明」し、「シトクロムP450StaP」が、インドールカチオンラジカルという特殊な中間体を経由し、インドロカルバゾール骨格を作り出していることを明らかにしました。今回の立体構造の解明により、インドロカルバゾール骨格形成の仕組みが詳細にわかり、更に「シトクロムP450StaP」の改良型(修飾等)を設計することによって、副作用の少ない、効果が高いインドロカルバゾール系抗がん剤の創製に貢献するものと期待されています。
なお、「三菱化学メデイエンス(株)」では、医療機関を通して、「エンドトキシンの定量」や「IgEの定量」などの検査を受託しています。